思いやり、それは誇りから。
< 本文は:物語風に6分 >
目次
1.タウパの前書き <厳しいけど優しい>
2.嬉しいから、それ以上に
3.苦労がわかるから許せる
4.気持ちをかえす
5.いい話がやってきた
6.いい話だが、実際に苦労してる者は
7.優しさ、それとも誇り?
8.まとめ <安心は誇りから>
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き <厳しいけど優しい>
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
ぼくのお父さんは、
おじいちゃんや、ひいおじいちゃんに、逆らえない。
厳しいみたいだけど、
おじいちゃんや、ひいおじいちゃんは、
ぼくには、優しいんだってばぁ。
2.嬉しいから、それ以上に
ネアラは40半ばの、ふっくらしたおばさんです。
手づくりの茶色いワンピースを着た姿で、葉をふいた屋根の軒先に立ちました。
高床に、おかれたカゴに目をむけ、その目を大きくします。
「こんなにたくさん! それも、きれいに洗ってあるじゃない」
ヤシの葉をあんだカゴに、イモがぎっしりつまっています。
20才ぐらいの青年が、褐色の肌をした上半身をみせ、ネアラにむいて立っています。
「おふくろが、たすかりましたって、感謝していました」
ネアラは、集落からすこしいったところで、片足をひきずりながら歩く、女にあった。
聞けば、ネアラの住む集落から、島のはしのほうへいったところに祭られる神に、娘の安産の祈願にいき、隣の集落へ帰るところで、足の裏にケガをしたと言う。
「お母さんはひと晩、泊まっていっただけよ」
青年が、白い歯をみせてほほ笑みました。
「ネアラさんに会わなかったら、おふくろはどうなっていたことか。夜道に座りこみ、暗闇をこわがっていただろうし、おばけにおののいて、いたかもしれません」
声をだして笑ったネアラが、高床におかれたイモに目をむけました。
「それにしてもこんなにたくさん、多すぎよ」
「ネアラさんがおふくろの立場だったら、おなじようにするんじゃないですか?」
ネアラが、顔をしかめました。
「そうね。嬉しいと、それ以上にしちゃうわね。お母さんに伝えて、いつでもここに寄って、休んでいってください。お気持ち、しっかりうけとりました、って」
3.苦労がわかるから許せる
葉をふいた屋根をこえて、ブタの悲鳴と、犬のはげしく吠える声がひびきます。
「いやぁ~。だれか、たすけてぇ」
ネアラが、叫び声をあげました。
「だれかぁ。ブタをとめてぇ、犬はブタを追いかけちゃだめぇ」
ブタがまっすぐに、走りだしました。
そのうしろ姿を、背筋をのばして見送ったネアラが、ふりかえります。
食事に関する物を入れておく、棚です。
枝をならべた壁がなかみを犬や猫、ネズミから守り、水をはったうつわの中に入った足が、アリの侵入をふせぎます。
自分でつくるので形や大きさは、それぞれの家でちがいます。
その棚は、なかみが雨でぬれないように屋根がつくられ、母屋の外におかれていました。
「あらぁ、いやだわぁ、こんなにめちゃくちゃにこわしちゃって」
顔をあげたネアラが、眉をよせます。
「ほんとに、ごめんなさい」
ネアラとおなじ中年の男が、腰に茶色い布をまいた姿で立っています。
まいった、というように手を、頭のうしろにあてました。
「犬や猫はよけて走るが、ブタはかまわず突進する。体が大きいし重いし、まったく、ブタが暴走したら、どうしょうもない」
男が、口元に笑みをうかべます。
「なぁに、問題ない。心配しないでください。ほとんどこわれていません」
「なにを言ってるんですか、まだ、つくったばかりじゃないですか。せっかくつくったのに、こんなにこわれて」
「うちのブタも柵をこわして逃げ、人さまの母屋の中を逃げまわり、床にしいてあったマットを切ってダメにしたんです。なぁに、お互いさまですよ」
男が倒れた棚をおこし、ネアラが手をかしました。
4本の足にささえられ、横に広くつくってあります。
男が、一歩さがりました。
「ほら、そんなにこわれてないでしょう。まだ、まだ、使えます」
男が胸をはり、にこやかに言います。
「ほんとうに、気にしないでください」
心のこもったしっかりした、言い方でした。
4.気持ちをかえす
逃げたブタが、柵の中にもどりました。
ネアラから話を聞いた、ネアラの夫が言います。
「そうか、こわした物は、うちで引きとろう」
夫は息子をつれて林に入り、3日かけて材料を集めます。
息子に手伝わせて数日かけ、こわした物よりひとまわり大きくて、立派な棚をつくりました。
それを息子たちが、男の家へはこびます。
息子のひとりは20才をすぎたぐらい、もうひとりはそのすこし年下です。
その家の男が、ネアラの息子たちにむいて立ちました。
「どうして、こんな大変なことを」
上の息子が、半歩前にでます。
「父さんが言ってました。許してくれたおじさんの気持ちに、応えるためにこうしてつくるんだって」
息子が、目を輝かせました。
「これを父さんといっしょに、つくってわかったんです。おじさんの許す気持ちに、こめられた思いが。つくってるあいだ漁にいけず毎日、イモやパンの実ばかりを食べていました。それで、作業をします。そんな思いをしてつくった物がこわれ、それを許すって、おじさんはすごいです」
男が、歯をのぞかせました。
「なにを言ってるんだ。そうやってつくった物を、こうして持ってこさせる。おまえのオヤジだって、おなじだ」
「これを持っていくように言われた時に、父さんの言った言葉の意味が、よくわからないんですが。これが島の暮らしなんだ、安心して暮らせるんだ、って」
男が、笑みを深めます。
「なぁに、気持ちをかえすってことだろう。心配ない、そのうち意味が、わかるようになる」
5.いい話がやってきた
集落から集落へ、伝言がとどきます。
ネアラの暮らす集落では、もうすぐ結婚するような年ごろの娘が、伝言を持って家々を訪れました。
「報せは島についた船からなんですが、今までとちがって、乗っていた赤い髪をした男性からなんです。他の国からきた中年の、とっても賢そうな顔をした方らしいです」
船は、おおかた2ヵ月に1度、わずかな日用品をはこんできて、島からコプラ(ヤシ油の原料)を、はこんでいきます。
軒先に立った娘が、その家の主の妻にむかって、つづけて話します。
「なんでも、次の船にブタを乗せると、乗せたブタの倍の数のブタが、1年後にもどってくるそうです」
眉をよせた妻に、娘がつづけて言います。
「乗せるのは、子供のブタでも、成長したブタでも、大きさはなんでもいいそうです。ですが、もどってくるのはみんな、成長した大きなブタだそうです。5頭のせれば10頭も、食べ応えのあるブタが、もどってくるんですよ」
妻は、目を大きくしました。
「ほんとだわ。今までになかった、はじめての話ね!」
6.いい話だが、実際に苦労している者は
報せを伝えにきた娘と母親との話しを聞いた、その家の16~7才の息子です。
友だちと、パンの木のつくる木陰に、集いました。
「もしかしたら、結婚式や葬式なんかの催し以外でも、ブタが食べられるように、なるってことかよ?」
「きっとそうだ! 食べ応えのあるブタが、倍の数だぜ」
「おい、ちょっと、待てよ」
青年が眉をよせ、深刻そうな顔をします。
「ブタを船に乗せるってことは、俺たちは、どれだけのエサを、集めることになるんだ! 船に乗ってるあいだ、くわなきゃ死んじまうからな」
別の青年が、繰りかえしうなずきます。
「かんべんしてくれ。そんなにたくさん、ヤシの実は落ちてないぞ。いっぺんには、ムリだぜ」
「安心しろって。俺が聞いたところじゃあ、ブタ以外、なにも乗せなくていいんだ」
「それだけのエサが、船に用意してあるってことか! すげぇなぁ。その上1年間、ブタの面倒をみて、育てるんだよな!」
「それって、ものすごく大変だよな」
「う~ん」
うなった青年たちが、首をかしげます。
パンの木のつくる影に、白っぽい木漏れ日が、ゆれていました。
7.優しさ、それとも誇り?
ネアラの暮らす母屋の軒先です。
もうすぐ結婚するような年ごろの娘が、ネアラとむきあって話しています。
ネアラが眉をよせました。
「次の船に、でしょう」
「ええ、ブタ以外、他にはなにもいらないそうです」
まぁ、というようにネアラが、口をひらきました。
「そんなので、だれか、ブタを乗せるのかしら?」
娘が首を、わずかにかしげました。
「役場に、乗せようか迷ってる人がいるって」
目を大きくしたネアラが、驚いたようにあごを引きました。
「その人以外には、迷ってる人やブタを乗せる人は、島じゅうにいないみたいです」
ネアラが納得したように、うなずきました。
「そうでしょうねぇ。ブタの面倒をみるのは、大変ですもの。それもたくさんのブタを、食べ応えのあるまでに育てるなんて。その人が気の毒だわ。そんなこと、人さまにさせられないわよ」
8.まとめ <安心は誇りから>
こんにちは、どふぁらずら。
島の安心な暮らし。
それは、それぞれの家族の、長老や家長の誇りからずら。
誇りがあれば、
うまい話しには、ひっかからないずら。
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