もしも自分が、周囲にいやな思いをさせるとしたら――
< 本文は:物語風に5分 >
目次
1.タウパの前書き
2.発達障害の症状
3.発達障害が、いい方向に作用する
4.クツリの発達障害は一長一短・周囲は、発達障害だとわからない
5.がまんの限界・本人は言われても気づけない
6.長老の言うことは絶対・受け入れられれば
7.症状をしれば対策ができる
8.周囲の理解と協力
9.努力をつづけ、症状をおさめられるように
10.まとめ
1.タウパの前書き
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
クツリさんは、男の人で、20代半ば。
大人には、すごい口調で怒ったりするけど、
ぼくたちと遊ぶと、
ぼくたちは、とっても楽しくって、
ぼくたちみたいに、はしゃぐクツリさんは、
ぼくたちとおなじ、子供みたいなんだってばぁ。
2.発達障害の症状
大きな目をしたクツリは細身で、ゆるいくせのある髪が肩までのびています。
クツリの人とちがう面は、自分の考えを伝えることが苦手で、すぐにムキになるところです。
「昨日、海で子供たちと遊んだんだけどよ、それがなかなか沈まなくて、どうしたって沈まなくて、なんとかして沈めたら、すっげー勢いで、飛びだしてくるんだぜ」
クツリは、外国の漁船が漁につかう、バスケットボールのような大きさの浮きを、浜でみつけたことを伝えようとしています。
それなのに、遊んで楽しかったこと、ばかりを話しました。
聞いている相手が、こまった顔をします。
「だから、なんなんだよ」
ちゃんと説明できていると思っているクツリは、とたんにムキになって相手を責めました。
「だから飛びだすって、言ってるじゃねぇか。おまえの耳、ちゃんと聞こえてるのか――。おまえ頭、おかしいんじゃねぇの」
暴言の連発ですが、クツリはそう思いません。
自分の思うことが真実で、正しいことを言っていると思っています。
3.発達障害が、いい方向に作用する
無神経なので、物おじしません。
それもクツリのもつ特別な面でした。
年上とか格上とか、関係ありません。
集落の長と、むかいあって立ちます。
「俺たちのグループのことじゃないんですが、あいつらのグループのリーダーに、長から話してもらえませんか? 俺が直接、リーダーに言ったんですが、かえてくれないんですよ。そのグループの奴らが、こまってるんです。だけどみんな、リーダーに言えるわけないだろうって」
「なにがだ」
「詳しいことは、グループの奴らに聞いてください」
クツリはまっすぐな面があり、正義の味方になることも、少なくありませんでした。
4.クツリの発達障害は一長一短・周囲は、発達障害だとわからない
クツリのグループの、40才前後の男たちが、クツリについて話しました。
「あいつは、すぐにムキになって、どうしようもない」
「暴言を言う自分が、正しいと思ってるから参る」
「だが、まわりが言いづらいことを、言ってくれる」
「ああ、あの、クソ度胸には、頭がさがる」
クツリの近しい人たちは、クツリを受け入れていました。
クツリを変わった奴だと思っていますが、それが発達障害によるものだとは、わかりません。
5.がまんの限界・本人は言われても気づけない
ヤシ林にはヤシの木にまざり、家を建てる材料になる、パンダナスの木が立っています。
腰に茶色い布をまいた男たちが交代で、オノをふって丸太をつくります。
クツリのいるグループです。
オノがかたい幹にあたる甲高い音が、木々のあいだへ響きました。
クツリが交代を待って、横に立っている男に話しかけました。
男がクツリに顔をむけます。
「おまえ、なにが言いたいんだ――」
とたんに、クツリがムキになって、暴言の連発です。
リーダーが、クツリにむきました。
リーダーは40才半ばで体格がよく、太いまゆをしています。
「図に乗って話す、おまえの言うことが、すぐにわかる奴はいない」
しっかりとした口調で、つづけます。
「自分の言ったことが通じないとおまえは、否定されたと思ってムキになるようだが、だれもおまえを否定してないし、責めていない。いいかげん、気づけ」
クツリが大きな目を、ギョロッとつりあげました。
「うっせぇんだよ。あんたの目は節穴か――。俺じゃねぇ。こいつが先に、ひどいこと言ったんじゃねぇか」
リーダーが太いまゆをよせました。
「人を悪者にしたって、自分を正当化できない。まわりの者を責めるんじゃない。今までみんな、がまんしてたんだ。おまえが頭にくる原因は、おまえ自身の発言にある。言葉を発する前に、考えろ――」
「考えるのは、あんただ。そうやって俺を、否定するじゃねぇか。俺はだれも、責めてなんかいねぇ」
クツリがオノを受け取り、幹を前にしました。
ほどなくして感情の高ぶりがおさまり、平常心にもどります。
6.長老の言うことは絶対・受け入れられれば
白い砂浜がつづいています。
そこに映るヤシの葉の影がうすくぼやけ、作業をおえて集落へもどったクツリが、海へむいて座っています。
ヤシの木のあいだから、クツリの祖父が浜へでました。
歩み寄った祖父がクツリの横に、腰のうしろで手をつないで立ちます。
骨ばった足の甲の褐色を、白い砂が惹き立てました。
「おまえたちの長(おさ)が、わしのところへきたじゃ。太いまゆをゆがめ、こまった顔をしとった」
奥まった祖父の瞳が、黒くうるんでいます。
落ち着いた口調でした。
「みんなおまえが、いつかわかる、いつか変わると信じて、ずっとがまんしとったそうじゃ」
クツリが祖父にむけた顔を、かしげます。
「わしが思っとった以上におまえは、周囲にイヤな思いをさせるようじゃ」
クツリの黒い瞳が、小さくゆれました。
「俺じゃねぇ、あいつらが先に――」
「だまらんか――」
感情をおさえた静かな言い方です。
「人のせいにするのは、おまえの特性のひとつじゃ。その自分が正しいと、錯覚することもじゃ」
祖父は長老にあたります。
おだやかな言い方でした。
「自分の問題とむきあうんじゃ。仲間にイヤな思いをさせるんじゃない」
長老の言うことは絶対です。
「ムキになって、暴言を吐かようにするんじゃ」
7.症状をしれば対策ができる
クツリのまっすぐな面が作用します。
≪この俺が、まわりの奴らにイヤな思いをさせるだと。そんな自分には、がまんがならねぇ≫
オノがかたい幹をたたく甲高い音が、林の中に響きます。
リーダーを前にしたクツリは、言葉を発しようとして、片手を顔の横へあげました。
発しようとした言葉をとめる、自分への合図です。
考えてから発します。
クツリの発言を聞き、リーダーやまわりの者が、ほほ笑みます。
クツリの話し方は、完全によくなったわけではありません。
ですがみんな、クツリの努力を認めました。
8.周囲の理解と協力
手をあげて言葉を発しますが、相手が聞きかえすと、クツリはムキになって暴言を吐きます。
相手がほほ笑みました。
「おっ、でたな。おまえの得意技が――」
祖父がクツリの問題を、リーダーに打ち明けたのです。
まわりの男たちが笑みとともに、つづけてクツリに言いました。
「それ以上言うと、得意技が反則技になるぞ――」
「クツリ、そこでやめておけば、得意技が必殺技に格上げだ」
クツリの感情がおさまります。
クツリは顔の横に手をあげる、努力をつづけました。
ついムキになって、暴言を発します。
そう簡単には、修正できません。
間違えるたびに、周囲のあたたかさを感じました。
クツリは、周囲にイヤな思いをさせないよう、努力を重ねます。
9.努力をつづけ、症状をおさめられるように
クツリは、発した暴言に自分で気づき、とめられるようになります。
≪おっと、この感じ、まずい、ムキになってるぜ≫
自分の感情に気づき、おさめられるようになりました。
気をぬくと、失敗します。
≪くっそー。なかなか、うまくいかないぜ。だけど、好き勝手に話してたころより、努力してるほうが、気分がいい≫
クツリはみんなと一緒に、自分の力で生きているような気がしました。
10.まとめ
こんにちは、どふぁらずら。
もしも、人に迷惑かけてて、それに気づけたら、
幸運ずら!
自分とむきあえる。
ほんでもって、その努力を、
まわりが支えたら、最高ずら。