後悔しないって、いいなぁ・・・
< 本文は:物語風に3分 >
目次
1.タウパの前書き
2.遠い過去へさかのぼって
3.何から何まできれいにみえた
4.胸がしめつけられるようで
5.思いが消えることはなかった
6.親のきめた相手と結婚
7.花嫁の顔をみて、外へ飛びだした
8.結婚はいい、とってもいい
9.まとめ
それでは、物語のように、どうぞ
1.タウパの前書き
こんにちは、島に住む10才のタウパです。
ゴージさんは、となりの集落からきた、60才をすぎた、
お腹のでたおじさんです。
胸に、たくさんはえた黒い毛の、いっ本いっ本が、
まるまってるんだってばぁ。
どふぁら兄ちゃんに話しがあるって。
だから、
ぼくもいっしょに聞くことになった。
2.遠い過去へさかのぼって
地面に、たつようにうまった木が、ならんでいます。
豚小屋のさくを背にして、ゴージがあぐらをかきました。
「ここがいい、ほら、ふたりとも、すわれ」
ゴージとむきあって、どふぁらとタウパがあぐらをかきました。
ゴージが、肩のたかさにあげた片手の指が、前にだらん、としています。
「ずっと、ずっと、前の話だ」
あげた片手の手のひらをめくって、何かを追いはらうように2度ふり、遠い遠い過去へさかのぼるぞ、というようです。
「わしが、まだ15才ぐらいのころじゃった」
3.何から何まできれいにみえた
ゴージが片手を、頭のうしろにあてました。
「いやぁ、その日わしは材料をさがして、となりの集落のちかくまでいっとった。その女の子は、屋根にふく葉をあつめに、もうひとりの女の子ときとったじゃ」
ゴージがはずかしそうに下をむき、後頭部にあてた手で頭をこすりました。
「真っ赤なハイビスカスを、いっ方の耳にさしとってなぁ。どういうわけかわしには、その子の黒目が、つやつや光ってみえた。ほほをながれる汗はもちろん、ほんのりふくらんだ胸のあいだを、ながれる汗まできれいじゃった」
4.胸がしめつけられるようで
ゴージが堪えるように微笑んでいます。
「いやぁ、あんな思いになったのは、後にも先にも、そのときだけじゃった。その子のことが忘れられんで、ここんところが、しめつけられるようじゃった」
ゴージの片手が、毛深い胸をこすりました。
「くるしくってな。わしはわざわざ、その集落のちかくまで、材料をさがしにいった。何度もじゃ。じゃがな、そううまくは会えん。会えたときには、飛びあがる思いじゃった。気持ちをおさえて、木々のあいだから、その子が葉をあつめてる姿をちらちらみながら、材料を切りだしたじゃ。いかないでくれ、ずっとそこにいてくれ、そんなふうに願いながらじゃ」
5.思いが消えることはなかった
「そのころは、あの子が好きだとか、恋心を持つ者は、ほとんどおらんかったじゃ。恋心を持ったとしても、だれも相手につたえようなんてことは、思わん。わしは遠目にみてるだけで、うれしかったじゃ。じゃが、そのとき1回会えただけで、何度いっても、会えんかったじゃ」
ゴージの話す声が、小さくなりました。
「足が遠のいたじゃ。それでも今日ならもしかすると、と思っていくことが、しばしばあった。やがてそれもなくなったが、わしの思いのなかから、赤いハイビスカスを耳にさしたその子が、消えることはなかったじゃ」
ゴージの視線が、地面におちました。
「何年かして、親から結婚するようにいわれ、わしは観念した。その子を忘れることにしたじゃ」
6.親のきめた相手と結婚
ゴージが気持ちを入れかえるように、背筋をのばしました。
「婿側をだいひょうして家長や、集落の長など5人が嫁をもらいにいき、嫁側のだいひょうがわしを見定めにきて、それぞれ催しがおこなわれる。ようやく当人どうしが、会える日になったじゃ。催しは昼からじゃった。わしは葉でつくったばかりの衣装を腰にまいて正装をし、会場にあぐらをかいとった。どんな嫁なんじゃろうと、ワクワクしたじゃ」
ゴージが腕をくみました。
「人につれられて嫁が、うしろにたったのがわかったじゃ。緊張して汗が、こめかみからダラダラながれた。それでもって嫁が、わしの横にすわった。わしは、そっちをむけんかったじゃ」
7.花嫁の顔をみて、外へ飛びだした
ゴージが自分の腹を、たたきました。
「司会の男じゃった。はずかしがって相手をみないわしらに、おたがいを確認するように勧めたじゃ」
ゴージが今度は、ひざを勢いよくたたき、切れのいい音がたちます。
「わしは、うしろへすっ飛んで、しりもちをついた。目は嫁の顔に、むいたままじゃった。とまった息をはじめたと同時にたちあがって、外へ飛びだした。井戸の脇へ走ったじゃ」
ゴージが息を、小さくはきだします。
「そこに咲いてた花を嫁にわたし、耳にさすようにたのんだ。その顔をみてわしは、涙がとまらんかったじゃ。まちがいない。赤いハイビスカスの子じゃった」
8.結婚はいい、とってもいい
ゴージが微笑みました。
「わしは幸せ者じゃ。嫁を大切にしたじゃ。結婚はいい。結婚はものすごくいいぞ」
ゴージが顔をグイッと、どふぁらの前にだしました。
「どうじゃ、どふぁら。結婚がしたくなったじゃろう」
どふぁらが首をかしげます。
「いいや、おまえは、結婚がしたくなったはずだ。今日わしがおまえを、たずねてきたのはほかでもない。おまえの嫁にしたい子がおるじゃ」
どふぁらが目を丸くし、その顔をみてタウパが、笑みをうかべました。
9.まとめ
ゴージは、自分の思いをつたえなかった。
それなのに、
後悔しないどころか、幸せになった。
ものすごく稀なケースずら。
おっと!
こっちも未来を、ひらいてくれるずら。
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